日本のBE試験を一気通貫で理解する ― 例数・判定法・追加試験の実務フロー
はじめに
後発医薬品の承認申請に必須の生物学的同等性(BE)試験。 ICH・FDA・EMAのガイドラインと比較したとき、 日本(PMDA)のガイドラインには独自の特徴がある。
本稿では「例数はいくつ必要か」「BE不成立だったらどうするか」 「溶出試験の結果はBE判定に使えるか」という 実務で直面する問いに答える形で、日本のBE試験制度を整理する。
1. BE試験の基本設計
BE試験は通常、健康成人を対象とした2×2クロスオーバー試験で実施する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| デザイン | 2製剤・2期間・2群クロスオーバー |
| 評価パラメータ | AUC、Cmax(対数変換) |
| 判定基準 | 90%信頼区間が[80%, 125%]内 |
| 消費者危険率 | 5%以下 |
消失半減期が極めて長い薬物など、クロスオーバーが困難な場合は 並行群間比較試験(パラレルデザイン)も認められている。
2. 例数の考え方
日本(PMDA):例数の下限規定なし
PMDAのBEガイドライン(薬生薬審発0319第1号)Q&Aには 以下の重要な記述がある。
「個体内変動の小さい薬物では、12人以下の被験者による試験によっても 生物学的同等性を示すことは可能である。不必要に被験者を増やすことを 避ける目的で、本ガイドラインでは特に被験者の数を規定していない。」
つまりPMDAは例数の下限を定めていない。 個体内CV%が小さい薬物であれば、少数例でもBE成立の可能性がある。
FDA/EMA:最低12名
一方、FDAおよびEMAは「最低12名の評価可能被験者」を要求している。 日本への申請でも実務上12名以上が標準的な出発点となる。
予備試験の位置づけ
本試験に先立ち**予試験(パイロット試験)**を実施して 必要例数・体液採取間隔を確認することがガイドラインで推奨されている。 予備試験の目安: 12〜18名(FDA/EMA最低要件: 12名) → CV%を推定して本試験の例数を算出 → 予備試験でBEが成立した場合、そのまま申請も可能
3. BE不成立だったら:例数追加試験(add-on study)
予備試験・本試験でBEが成立しなかった場合、 日本では**例数追加試験(add-on subject study)**が認められている。
ルール
- 本試験と同じ方法で実施
- プロトコールで事前に例数追加の可能性を規定しておくこと(事後追加は不可)
- 1回のみ実施可能
- 本試験と追加試験の例数がほぼ等しいこと(Q-11)
- 本試験と追加試験のデータを統合して最終判定
例
本試験: 20名 → BE不成立 追加試験: 本試験と同程度(≒20名) 統合データで再判定
EMAの2段階デザインとの比較
| 項目 | 日本のadd-on study | EMAの2段階デザイン |
|---|---|---|
| α調整 | 不要(α増大は最大2.5%程度で実用上許容、Q-11) | 必要(第1段階: 94.12%CI) |
| 実施回数 | 1回のみ | 規定に基づく |
| 事前届け出 | プロトコールで事前規定が必須(Q-11) | プロトコル記載必須 |
| 結果 | 実質同等の機能 | より厳格な統計的保証 |
日本のadd-on studyはEMAの2段階デザインほど統計的に厳格ではないが、 実務上は同等の機能を果たしている。
4. 溶出試験4液同等性→平均値判定法(救済規定)
ガイドライン本文II.2.4)・図1(c)に正規に位置付けられた救済規定であり、 90%CIが[80%, 125%]を外れた場合でも一定条件下でBE成立と判定できる。
どんな場合に使うか
特に個体内CV%が25〜30%以上の高変動性薬物では、 通常の90%CI法でBEを示すために必要な例数が 現実的に実施不可能なほど大きくなることがある。
このような場合に、溶出試験の同等性を補完的根拠として使う 平均値判定法が認められている。
条件
以下の両方を満たす場合: ① 総被験者数20名(1群10名)以上 (add-on後はその統合例数で20名以上を満たすこと) ② 溶出試験(複数の試験液)で標準製剤と 試験製剤の溶出挙動が類似(即放性・腸溶性)または 同等(徐放性)と判定される → 90%CIが[80%, 125%]を外れていても AUC・Cmaxの対数値の平均差が log(0.90)〜log(1.11)の範囲内であれば 生物学的同等と判定可能
溶出試験との連携
この判定法を使うためには、 溶出試験で標準製剤と試験製剤の f2値(類似性因子)が50以上であることが 実務上の目安となる。
CMC NavigatorのPhase2(溶出試験f2解析)で 事前に溶出挙動の類似性を確認しておくことが重要である。
5. 実務判断フロー
Step 1: 予備試験(12〜18名) → CV%を推定 → 必要例数を算出 → BE成立なら申請可能 ✅ Step 2: 本試験(算出例数で実施) → BE成立(90%CI内)→ 申請 ✅ → BE不成立 → Step 3へ Step 3: 例数追加試験(add-on study) → 本試験とほぼ等しい例数(プロトコール事前規定・1回のみ) → 統合データで再判定 → BE成立 → 申請 ✅ → BE不成立 → Step 4へ(条件を満たす場合) Step 4: 平均値判定法(救済規定/log0.90–1.11ルール) → 条件: 総20名以上+溶出4液同等性 → 平均差がlog(0.90)〜log(1.11)内 → 申請 ✅ → 不成立 → 製剤処方の再検討
6. CMC Navigatorでの活用
| ステップ | 使用モジュール |
|---|---|
| 溶出挙動の確認(f2解析) | Phase2 / 溶出試験f2 |
| 予備試験データの解析 | Phase2 / BE統計解析 |
| 必要例数の算出 | Phase2 / BE統計解析(例数設計タブ) |
| 追加試験後の統合解析 | Phase2 / BE統計解析(データ追加) |
まとめ
- PMDAのBEガイドラインは例数の下限を規定していない
- FDA/EMAの最低12名が実務上の出発点
- BE不成立の場合は**add-on study(1回)**が可能
- 高変動性薬物では溶出試験補完による平均値判定法が使える
- これらを組み合わせた判断ツリーが日本のBE試験の実務フロー
注意事項
本稿はPMDAガイドライン(薬生薬審発0319第1号、令和2年3月19日) およびそのQ&Aをもとに作成した。 個別案件への適用にあたってはPMDA相談を推奨する。
更新履歴
- 2026-05-05:「20名ルール」の扱いを修正。日本のガイドラインに通常BE試験の数値的最低例数規定はなく、20名は救済規定(log0.90–1.11ルール)の適用条件である旨を明確化。併せて add-on study の規定(プロトコール事前規定必須・本試験とほぼ等例数・α増大最大2.5%)をQ-11に整合させて修正。