溶出試験f2計算をCMC Navigatorでやってみた ― 処方変更時の同等性評価を実践する
f2値とは何か・なぜ重要か
溶出プロファイルの類似性を単一の数値で表したのが類似性因子 f2 だ。計算式はシンプルで、参照製剤(R)と試験製剤(T)の各時点における溶出率の差を二乗平均して評価する。
f2 = 50 × log{ [1 + (1/n)Σ(Rt - Tt)²]^(-0.5) × 100 }
f2 が 50 以上であれば「プロファイルが類似している」と判断される。これは各時点での平均差が約 10% 以内に収まっている状態に対応する。逆に f2 が 50 を下回れば、溶出挙動が有意に異なることを意味し、追加の生物学的同等性試験が求められる可能性がある。
この指標が重要な理由は規制上の根拠にある。ICH Q6A(Section 3.3.2.1(a) および Decision Tree #7)は、即放性固形製剤において「溶出速度の変化がバイオアベイラビリティに有意な影響を与えると示された場合、許容できないバイオアベイラビリティを持つバッチを識別できる試験条件を設定すること」を求める。処方変更や製造工程の変更が溶出に影響するなら、その変更の前後で溶出プロファイルを比較し、同等性を証明しなければならない。
また ICH Q1A(R2) は、薬物製品の significant change(重大な変化)として「12 dosage units の溶出試験で受入基準に不適合」を明示している。溶出規格は申請規格の根幹であり、そこから逸脱するような処方変更は、f2 計算による事前の同等性確認なしには進められない。
どんな時にf2計算が必要か
f2 計算が求められる主な場面は 3 つだ。
処方変更が最も頻繁なケースだ。臨床試験用製剤から商業製剤への移行、または賦形剤の変更・配合比の修正が発生した場合、QbD の文脈では CTD 3.2.P.2.1(処方の開発の経緯)に変更前後のプロファイル比較を記載する。Q6A Decision Tree #7 が示す通り、バイオアベイラビリティへの影響が懸念される変更であれば f2 による同等性確認は必須になる。
スケールアップも同様だ。ラボスケールからパイロット、さらに商業スケールへ移行する際、造粒条件や打錠条件の変化が溶出挙動に影響することがある。ICH Q6A は「製造変数の変化が溶出に影響する場合、その変化を識別できる試験条件を採用する」ことを要求する。承認前のスケールアップであれば 3.2.P.2.5 に、承認後であれば SUPAC 等の変更管理フレームワークの下で f2 評価を行う。
参照製剤(先発品)との比較は後発品申請の文脈で日常的に発生する。複数の溶出媒体(pH 1.2・4.0・6.8)でのプロファイル比較が求められ、いずれの媒体でも f2 ≥ 50 を示すことが BE 免除申請の前提となる場合がある。
CMC Navigatorでの操作手順
CMC Navigator の Phase 2 ページ「溶出 f2 解析」にアクセスすることで、これらの計算をガイドライン準拠の形式で実行できる。以下に操作手順を示す。
Step 1. データ入力
参照製剤(R)と試験製剤(T)それぞれについて、測定時点と溶出率(%)を入力する。入力時の注意点が 2 つある。第一に、各製剤 12 ユニット以上 のデータが必要だ。Q6A の dissolution test は 12 剤形単位を基本とする。第二に、いずれかの製剤で 85% 以上の溶出が達成された時点以降のデータは 1 時点まで しか f2 計算に使用できない。これを超えて使うと f2 が過大評価される。
Step 2. 前提条件チェック
データ入力後、Navigator が以下の前提条件を自動チェックする。
- 測定時点が最低 3 時点あるか
- 85% 到達前の時点で RSD が 20% 以下 か(初期時点)
- 後続時点で RSD が 10% 以下 か
RSD が基準を超えている場合、f2 の算出自体が不適切になる。Navigator はここで警告を表示し、結果の信頼性について注記する。
Step 3. f2の算出と溶出プロファイルの可視化
前提条件を満たしていれば、f2 値が自動計算される。同時に両製剤の溶出プロファイルが重ね描きされたグラフが生成される。
計算例として、以下のようなモックデータで試してみた。
| 時点(分) | R 平均(%) | T 平均(%) | 差の二乗 |
|---|---|---|---|
| 15 | 42.3 | 39.8 | 6.25 |
| 30 | 68.5 | 65.2 | 10.89 |
| 45 | 83.6 | 80.1 | 12.25 |
| 60 | 91.2 | 88.7 | 6.25 |
このデータでの f2 = 50 × log(1/√(1 + 35.64/4)) ≈ 65.3 となり、「類似」と判定される。
結果の解釈・CTDへの記載方法
f2 ≥ 50 が得られた場合、処方変更前後の溶出挙動が同等であると言える。しかしこの数値をそのまま CTD に貼り付けるだけでは不十分だ。規制当局が確認したいのは「計算の過程と前提条件が ICH 基準に準拠していること」であり、以下の要素をセットで記載する必要がある。
CTD 3.2.P.2.5(製造工程の開発の経緯)への記載例:
試験製剤(変更後処方)と参照製剤(変更前処方)の溶出プロファイルを比較した。
試験条件: パドル法、50 rpm、pH 6.8 リン酸緩衝液、37℃、900 mL
各群 12 ユニットを用い、15・30・45・60分の時点で測定した。
前提条件の確認:
- 全時点で RSD ≤ 10%(最大 RSD: 7.8% at 15分)
- 85% 超過後の使用時点: 1時点(60分)
f2 = 65.3(f2 ≥ 50 の基準を満たす)
以上より、変更前後の溶出プロファイルは類似していると判断し、
追加のバイオアベイラビリティ試験は不要と考えた。
f2 < 50 だった場合は追加の実験計画が必要になる。まず試験条件(媒体の pH、パドル速度)を再検討し、生理的条件に近い設定で再試験する。それでも非類似であれば、バイオアベイラビリティへの影響を評価するための in vivo 試験(BE 試験)の実施を検討しなければならない。
まとめ ― 溶出試験の同等性評価をNavigatorで効率化する
f2 計算は単純な数式だが、前提条件の確認(RSD・時点数・85% ルール)と結果の文脈への落とし込みが重要だ。ICH Q6A の Decision Tree #7 が示す通り、溶出試験の設計と受入基準の設定はバイオアベイラビリティとの関係性から逆算して行うものであり、f2 はその比較ツールに過ぎない。
CMC Navigator の Phase 2 では、この溶出 f2 解析のほかに以下の解析も実行できる。
- 含量均一性 — RSD と AV 値の算出、USP <905> 基準との照合
- 溶出プロファイルの多媒体比較 — pH 1.2・4.0・6.8 での一括計算
- in vitro/in vivo 相関(IVIVC)の初期評価
次の記事では、CMC Navigator の含量均一性解析ページを使い、3.2.P.2.1 への記載例を実データで作成する。
CMC Navigator で実際に試してみる
本記事で解説した溶出f2計算は、CMC Navigator Phase 2の溶出解析ページで実行できる。CSVデータを貼り付けるだけでf2値・f1値が自動計算され、CTD記載用の結果テキストも出力される。
👉 CMC Navigator — 溶出f2解析ページで試してみる
利用にはアカウントの登録が必要です。 新規登録はこちら →
参照: ICH Q6A Specifications (October 1999), ICH Q1A(R2) Stability Testing (February 2003)