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統計理論生物学的同等性BE試験例数計算予備試験ベイジアン統計

予試験は何例やるべきか — ベイズ・アシュアランスで生物学的同等性試験の例数を設計する

ガイドラインが決めていない数字

生物学的同等性(BE)試験の被験者数について、ガイドラインは本試験の下限を定めている。ICH M13A ではクロスオーバー試験で最低12例(並行群間では1群12例)、日本の後発医薬品BEガイドラインでは本試験で総被験者数20名(1群10名)以上、本試験と追加試験を併せて30名以上とされている。

一方で、予試験を何例で実施すべきかについての規定はない。日本のガイドラインは、本試験に先立ち予試験を行うなどして必要例数を定め、その設定根拠を明らかにする、という趣旨の記載になっており、予試験は例数を決めるための手段として位置づけられている。手段そのものの規模は設計者に委ねられている。

実務では12〜18例あたりが相場とされるが、自分のケースで6例と20例のどちらが妥当なのかは、相場からは判断できない。この問いに数値で答えるための探索ツールを作った過程で見えたことを整理する。

失敗した実装 — 指標が数学的に縮退していた

以前、ベイズ流のBEサンプルサイズ設計モジュールを実装したことがある。しかし何を入力しても推奨例数が最小値(n=4)にしかならず、実務ツールとして成立しないため画面から外した。

追記(2026-08-12): 「取り下げた」と書いていたが、正確には画面から外しただけで、計算とAPIは残っていた。その後、縮退を検出して判定不能を返すようにしたうえで、モジュールごと撤去した。指標の定義そのものが下記のとおり誤っており、直すには作り直すしかないためである。BE の例数設計は古典的な Diletti 1992 の実装(Phase 2 / BE統計解析)に一本化した。本稿は撤去の記録であり、将来アシュアランスを実装するときの設計文書でもある。

今回あらためて原因を調べたところ、問題は指標の定義そのものにあった。当時用いていたのは「事後BE確率を事前予測分布上で平均した値」である。ところがこれは、全期待値の法則(tower property)により必ず事前確率そのものに戻る。E[E[X|data]] = E[X] であるから、データで更新した結果をそのデータの分布で平均し直せば、元の値に戻るのは当然だった。

結果として、この指標は n にも個体内変動にも反応せず、n に対する曲線が水平になる。目標確率を最初に超える n を探索すれば、常に探索範囲の最小値が返る。「n=4 しか出ない」という症状は、規制上の問題ではなく数学的な縮退だった。

ベイズ・アシュアランスという指標

サンプルサイズ設計で意味を持つのは、アシュアランスと呼ばれる量である。

まず、真の GMR が θ と分かっている場合に試験が成功する確率、すなわち条件付き検出力を考える。BE試験の「90%信頼区間が 0.80〜1.25 に収まる」という判定規則は代数的に TOST(2つの片側検定)と等価であり、この確率は TOST の検出力そのものである。

ただし θ は実際には分かっていない。文献値や予測から得た事前分布があるだけである。そこで θ の不確実性を込みにして検出力を平均する。

アシュアランス(n) = ∫ 条件付き検出力(θ, n) × 事前分布(θ) dθ

この量は n について単調に増加し、個体内変動が大きければ必要例数も増える。個体内CVは σw = √(ln(1 + CV²)) を通じて標準誤差 SE = σw√(2/n) に効くため、必要例数はおおむね σw の2乗に比例する。実際、CV 10 / 20 / 30 / 40% に対して必要例数は 10 / 34 / 74 / 126 と変化した。

★これらの数値は本稿のための探索実装で得たものであり、Navigator に載っている機能の出力ではない。Navigator の例数設計(Phase 2 / BE統計解析)は古典的な Diletti 1992 の正規近似を用いる別の計算で、個体内変動を σ_w ≈ CV の近似で扱う。同じ CV を入れても本稿の数値とは一致しない。

天井 — n を増やしても届かない領域がある

アシュアランスには、通常の検出力にはない性質がある。n を無限に大きくしたときの収束先が 1 ではない。

n を増やすと標準誤差は 0 に近づき、条件付き検出力は「真の GMR がBE域の内側なら 1、外側なら 0」という指示関数に近づく。したがってアシュアランスの極限は、事前分布がBE域に入る確率になる。

つまり「そもそも同等でないかもしれない」という不確実性は、被験者を何人集めても消えない。事前BE確率が 95.4% であれば、目標を 96% に設定した時点で、その試験計画は原理的に達成不能である。

ツールにはこの状態を検出したら、推奨例数の欄に数値だけを出すのではなく、目標に届いていないことを明示する表示を入れた。「探索範囲の上限に張り付いた値」と「目標を満たす最小の例数」は、意味の異なる数値である。同じ欄に同じ形式で並べれば、読み手は後者として受け取る。数値そのものが正しくても、それが何を表しているかの表示を欠けば、伝わる内容は誤りになる。

予試験 → 事後更新 → 本試験

ここまでが土台である。本題の「予試験を何例で実施するか」に進む。

設計の流れは次のようになる。

  1. 文献値・予測値から事前分布を置く
  2. 少数例の予試験を実施し、観測 GMR を得る
  3. 正規共役更新により事後分布を求める
  4. その事後分布上でアシュアランスを積分し、本試験の必要例数を算出する

予試験がもたらす情報量は予試験の例数で決まる(予試験の標準誤差は σw√(2 / 予試験n))。したがって予試験を大きくするほど事後分布は鋭くなり、本試験の必要例数の見積もりが定まる。

実際に動かすと、直感に反する挙動が現れる。事前 GMR 0.95・事前SD 0.10 の状態で、予試験12例において 0.92 という期待を下回る結果が得られたとする。平均は悪化するが、事後SDが 0.10 から 0.071 まで縮むため、本試験の必要例数は 70名から52名に減少する。分布の裾がBE限界に届きにくくなる効果が、中心の悪化を上回るためである。

ただし限度がある。同じ条件で観測 GMR が 0.88 まで低下すると、本試験は58名に増加した。予試験の結果が「得になる範囲」と「損が勝つ範囲」の境目がどこにあるかを探せることが、このツールの用途である。

予試験6例では判定能力を持たない

予試験 6例・12例・20例を並べた比較表を作ったところ、想定していなかった結果が出た。

予試験6例・CV25% では、予試験でBEを示せる確率がちょうど 0% になる。

計算は次のとおりである。CV25% であれば σw = 0.246、n=6 での標準誤差は 0.246 × √(2/6) = 0.142。90%信頼区間の半幅は 1.645 × 0.142 = 0.234 となる。一方、BE域の半幅は ln(1.25) = 0.223 である。

信頼区間の幅がBE域より広い。どれほど良い結果が得られても、区間が 0.80〜1.25 に収まることは幾何学的に起こりえない。これは「確率が低い」のではなく、観測結果によらず不可能だという意味である。CV20% であれば半幅は 0.188 となり収まる余地があり、確率は 17% と算出される。

ガイドラインが本試験に12例や20例という下限を置いている理由は、この数値から理解できる。区間推定による判定である以上、例数が小さすぎる試験は判定能力そのものを持たない。

予試験が本試験を代替する場合

設計の前提を変えるもう一つの事実がある。日本のBEガイドラインの質疑応答集では、ガイドラインの基準を満たした試験として実施されていれば、予試験の結果をそのままヒトBE試験のデータとして評価に用いることができるとされている。

つまり予試験は必ずしも本試験の前段ではなく、規定を満たす規模で計画すればそれ自体が本試験になりうる。この場合、予試験の例数を決める判断には次の3点が同時に効いてくる。

  • 予試験の情報によって本試験の必要例数をどれだけ絞り込めるか
  • 予試験だけでBEを示せる確率はどの程度か
  • 総被験者数(予試験 + 本試験)で見た場合の損得はどうか

予試験を大きくすると本試験は小さくなるが、総数では増えることがある。一方で予試験だけで完了する可能性が上がるため、単純な総数比較では損に見えて実際には得になる場合がある。この三者のトレードオフを一覧できるようにしたのが比較表である。

実際に試せる形で公開している

以上の計算は Explorer のベイジアンBE設計モジュール で実行できる。予試験の例数と想定される結果を入力し、本試験の必要例数がどう変化するかを確認していただきたい。

なお Explorer は探索的解析のための研究段階のツールであり、規制対応や申請判断への使用は想定していない。ここで得られる数値は仮説生成のための当たりであって結論ではないため、試験デザインの決定にあたっては正規の手法で改めて検証していただきたい。

おわりに

実装してみて最も収穫だったのは、予試験の例数がガイドラインに規定されていない理由が理解できたことである。適切な規模は、事前情報の確からしさ、個体内変動の大きさ、そこに割ける予算によって変わる。一律に決められないから書かれていない。とすれば、そこは各自が根拠を持って設計すべき領域だということになる。